
戦争を美化するのではなく、ただ大切なものを守りたいという一心で散っていった特攻隊員の思いを描いたこの作品。
当時の日本人がどんなことを考えていたのかを、この絵本は優しく紐解いてくれています。
損得感情抜きの精神って ワールドスタンダードになっていいと思うんです。
―7月5日に「お父さんへの千羽鶴」という絵本が発売されますね。まず、特攻隊員を題材にしたのはなぜですか?
「前作が『9番目の戦車』という戦争を題材にした作品で、今回も戦争の話ですが、私は戦争の話だけで描いていこうというつもりは全くないんですよ。ただ戦争体験者の方々が生きておられるうちに、戦争を知らない世代と体験者の皆さんが
繋がるような作品を出したいなと思いまして。
特に特攻隊というと、今は悲惨な運命に翻弄されたかわいそうな人たち、という捉えられ方しかしていない気がするんです。泥の中に咲いている蓮のような、ひどい状況の中だからこそ輝くようなところが、当時の日本人にはあったんじゃないか
と思うんですよ。そこに焦点を当てたいというのが一つ。それから亡くなった英霊の方々の本当の思い、送り出す家族の思いというものを、私なりに伝えていきたいと思って、この作品を描きました。」
―前作の『9番目の戦車』もそうでしたが、ときたさんの作品からは、仲間や家族といった人たちとの繋がりや愛情といったものを、もっと大切にしたいという思いが伝わってきます。
「ありがとうございます。生まれた以上は誰にも何か大切なものがあるわけで、その大切なものが私にとっては家族や、独身の頃は同僚である機動隊員たちだったんです。大切なものや人っていうのは必ず自分の周りにいるものだなっていうのが分かりまして、作品のテーマはやはりそういう方にいきますね。
今作で描いた特攻隊員の人たちは、自分の大切なもののために散って行ったわけですが、つまり自分の命よりも大切なものがあったということですよね。
例えば今、学校では、“命は地球よりも重い”と教えますけど、命よりも大切なものは何でしょうかという疑問は投げかけないわけですよ。そういう質問したら、いろんな意見が出てくると思うんです。私は自分の命よりも大切なものを探すために人間として生まれて、それを見つけて死んだら人間卒業で、もう一段違う世界があるのかなと思っているんです。
ちょっと宗教がかった話になってしまいますが」
―なるほど。“命は地球よりも重い”というのは一つの意見としてならいいんですけど、教師が上から決めつけてしまうと、それから先に想像力が広がっていかないですよね。
当時も想像力の限界というか、突っ込めと言われて拒否したら非国民と言われるような、そんな風潮が圧倒的でしたよね。もっと他の方法について模索することすらもさせてもらえなかったというのは、悲劇だと思うんです。
「それは本当に悲劇ですよね。自分が心から信頼している人に死んでこいと命令されるならまだしも、こいつにだけは言われたくないっていう上官もいただろうし(笑)。そんな中で特攻という使命を果たした人たちというのは、自然に納得したんじゃなくて、自分を納得させたんでしょうね。
誰だって死にたくはないですから。でも納得できるだけの何かがあったからできたと思うんです。」
―なるほどね。当時の人たちはもちろん死にたくはないけど、自分の命よりも大事なものを見つけて死んでいったわけですよね。そうすると、今の時代に生きる僕たちよりもある意味幸せだったのかなという気もします。
「寿命の長さで言うと、今の価値観だとかわいそうで終わってしまうのかもしれないけど、私たちよりもよっぽど充実した時間を生きていたのかもしれないですよね。これを描いたあたりから自分でも考えるようになったんですが、私にとって命より大事なものって『魂』だと思うんです。例えば、
ある人には『死んでもこれは成し遂げたい』という想いがあるとしたら、私は例えその人が死んでしまってもその想いを大事にしたいなと思うんです。命よりも大切な想い、それが日本語で言う『魂』なのかなと」
―なるほど。前から疑問に思っていたことが、今のお話しで少し分かったような気がします。誰かを守りたいと思っていても、死んでしまったら守れないじゃないかという意見もありますよね。確かに死んでしまったらどうしようもない。でもその想いはやっぱりずっと残るわけですよね。
「それを考えると、今の日本が、特攻隊の皆さんが望んでいた日本かというと、違うと思うんです。私たちが命よりも大事なものを考えない、そういうふうになっているというのは、特攻隊員だけじゃなくて、戦場で亡くなった方々の思いとは違うんじゃないかなと思うんです。国人が戦争に負けても卑屈になったりしないで、
誇りを持って生きて欲しい。大切なものを守るという気概や魂を持った国民であってほしい、そう思っていたんじゃないかなと思うんです。」


―うーん、確かに。
「あと特攻隊の話で特殊だなと思うのは、自分の利益は全く度外視していることですね。例えば西洋の宗教観だと、『こういうことをしたら自分は天国に行ける』というふうに信じているから善行をやりとげるわけですよ。
でも日本人の兵士の場合は、天国ではなく『靖国で会おう』と誓い合っていたり、『死んで護国の鬼となる』なんて遺書を残していたりします。自分が天国に行くとか、成仏するとかよりも、ただ、あとにのこる将来の日本人が
大切だったんです。そんな損得感情を一切抜きで死ぬまで戦うというのはすごいことなんじゃないかなって思うんです。それからこの物語に絡んでくる千羽鶴もそうですが、逢ったこともない人のためにだって、自分の時間、つまり
寿命の一部を捧げて千羽鶴を作って祈ったりします。これって自分の利益を考えたらできないわけですよ。そういう私心のない祈りを大切にする価値観は、日本から世界に発信できるものですし、ワールドスタンダードになってもおかしくないんじゃないのかなって思いますね。」
―なるほどなあ。この作品の主人公であるお父さんは、家族の前でとてもにこやかな表情をしています。でもこの笑顔の裏にはものすごい葛藤があったんじゃないかなという、そういう部分が絵からにじみ出ているように思います。
「ええ。彼らの心情が少しでも分かればと思って、当時の写真を見てみたんですが、みんな今から本当に出撃するのかなという、とても明るい顔をしているんですよね。で、この人たちの気持ちがある程度は分かったとしても、私は体験者ではないので完全には分からないですから、踏み込んでは
欠けないなと思ったんです。でも、自分がそういう体験をしていなくても、一歩踏み込んで描いて出せるかどうかが作家としての分かれ目なのかなと思ったんです。というのは、これから先、体験者の方々がさらに少なくなっていきますから、踏み込みの甘い作品では体験者の思いを伝えることは出来ない
と思うんですね。だから一歩踏み込んで描くためには度胸もいるし、度胸を持てるだけの勉強もしなくちゃいけないし、それがあって初めて踏み込めるのかなと思いましたね」
私の友達に、甲冑着たままハーレーに乗って、高速を走って時代祭りに来た人がいます(笑)
―ときたさんが絵本を描く時に、強くこだわっているのはどんな部分ですか?
『人が読んでためにならないものは出したくないですね。おもしろいだけで終わってしまって、何が言いたいのか分からない絵本は出したくないです。絵本の絵は物語を説明するためのさし絵ではなくて、一枚一枚に物語り性があるような、芸術性のあるものでないといけないんじゃないかと思うので、そこら辺を注意して描いてます」
―今制作中の作品はありますか?
「地方の商工会さんから、その土地で昔あった合戦を絵本にしてほしいという依頼を受けまして。観光のためにも役立てたいという話でした。やっぱりその土地の歴史が分からないと、その土地に対する愛着もわかないと思うし。地元の方々でも、こういう人がいてこういうことがあったから今こうなっているんだよっていう流れが
分からないと、郷土愛には結びつかないと思うんですよね。それぞれの地方レベルで、みなさんが元気になれることから始める事も考えています。それから絵本とは違いますが、趣味を兼ねて、各地方の時代行列祭りに甲冑を着て参加することで、地域の皆さんと年齢に関係なく盛り上がれますよ」
―楽しそうですねぇ。
「行列に参加する人たちは、みんな甲冑を着てることが楽しいというよりも、それを見に来た人たちが楽しんでくれていることに喜びを感じるんですよ。私の友達に甲冑着たままハーレーに乗って時代祭りに参加した人がいまして(笑)。点ではなく線で盛り上げながら来ちゃうんですね。それを見た人が『オレ疲れてるのかな』って会社に行ったら休め
って言われたという(笑)。でもその人は確かに見たはずなので、ネットで検索してみたらその友達のホームページにヒットして。あなたは本当にいたんですね、安心しました、って書き込みがあったそうです(笑)」
―はははははははは。お逢いしたいなぁ(笑)。えーと、ではこれから描いてみたい作品、今構想中の作品はありますか?
「胃是にお話した戦国武将カルタなんですが、商品化したいという会社が現れましたので、完成度をさらに上げるよう手直ししています。あとは甲冑を着せた肖像画も、おかげさまで好評をいただいています。今日もいざ出陣!って感じで、あれを部屋に飾って自分に気合いを入れている方もいるんです。そんな風に皆さんのお役に立てればいいですね」
―歴史物ではないお話もぜひ読んでみたいですね。
「ええ、いくつか構想中のものがありますよ。ライオンとうさぎの話とか、初めてお化粧するちいさな女の子の話などですね。それはあまりに化粧が過剰な高校生を見て思いついて(笑)」
―(笑)。では次回作も楽しみにしています。
「はい。僕は立ち読みができないような作品を作っていきたいですね。立ち読みしちゃうとその場で号泣したり、爆笑しちゃって立ち読みできないような、それでいてためになる作品にしたいですし、あの人にも見せないな、なんて思ってもらえる絵本を描いていきたいです」
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